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本質を見失ったDXの末路 3/3

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DXが、その本質を置き去りにされ、カタチばかりの取り組みに陥っているのではないか。前回は、この点を指摘しましたが、では、どうすればいいのでしょうか。本連載の最後に考えてみます。

DX研修をしても現場任せのままではDXはできない

このようなことにならないように、デジタル・リテラシー研修やDXセミナーなどを開催する企業も増えました。DXの本質やこれを支えるテクノロジーを学び、また、ビジネスの実践への活用を模索する動きも増えています。ただ、これらの多くが、「教養番組」に終わっていることも少なくありません。

DX推進組織は、「DX研修をして、DXやデジタル技術の理解が進めば、現場が動き始める」という、絶対にあり得ないロジックを前提に、このような取り組みに熱心です。しかし、DXは、組織の壁を乗り越えて、全社的な観点から業務プロセスやビジネス・モデル、企業の文化や風土を作り変える取り組みです。そんなことは、現場にまかせてできることではありません。圧倒的なトップダウンとリーダーシップで、現場に変革を迫らなくてはなりません。

このようなことを棚に上げ、ひたすら変革を叫び、研修やセミナーを繰り返しても、DXが実践されることはありません。

変革は「いま」を辞めることからはじめる

DXに限ったことではありませんが変革には、それを成功させるための基本原則があります。

社会心理学の父と言われるクルト・レヴィンは、変革を成功に導くには、従来のやり方や価値観を壊し(解凍)、それらを変化させ(変革)、新たな方法や価値観を構築する(再凍結)という3段階が必要だと述べています。

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第1段階:解凍(unfreezing

解凍とは、いままでのやり方では通用せず、変えていかなければ会社の経営は危機的状況に陥るという現状認識と危機感を共有し、新しい考え方、やり方によって改善していくといった雰囲気を醸成することです。既存の価値観や先入観を捨てて、新たな企業の文化や風土を作っていこうとの考えに従業員が合意し、新しい取り組みにむけた推進力を生みだすことです。

第2段階:変革/移動(moving

変革の必要性が共有されたあとは、変革です。目指すべき改革の方向性や全体像を共有し、誰が、何を、いつまでに実行するかなどの具体的な実効策を定めます。さらに、変革の実行がどれだけの効果を生み出しているのかを検証し、試行錯誤を重ねながら、変革を進めてゆきます。

第3段階:再凍結(freezing

変革を起こせても、元に戻ってしまっては意味がありません。そこで、変革の成果を検証できた段階で、それを組織内に定着させ習慣化させます。そうすることで、組織内では変革後の状態が当たり前のものとして定着する、つまり新しい企業の風土や文化が根付きます。

DX」というお題を与えられて、何か新しいことを始めなければと、多くの企業がもがいています。

ただ、クルト・レビンの「変革の3段階」に従うならば、新しいことを始めるためには、まずは『いま』を終わらせなくてはりません。「価値がなくなる」ものはなにかに真摯に向き合うことを先行させ、それに続いて、新しいことに取り組む必要があるということです。

これができないとどうなるかです。例えば、コロナ禍に直面し、手続きや決済をリモートでも行えるようにとワークフローのデジタル化に取り組んだ企業があります。しかし、従来の紙の書類と捺印によるワークフローは、そのまま残すことにしたそうです。結果として、業務プロセスが複雑化して、現場が混乱してしまいました。また、まずはデジタル・ワークフローで手続きをさせて、後日、従来からの書類も提出するローカル・ルールが作られてしまい、仕事が増えてしまったという話しを聞きました。

「教養番組」で熱心に学んでも、「いまを終わらせる」覚悟を持てず、業務の改革や新規事業といった新しいことを始めることにばかりに囚われていては、変革は進みません。

「教養番組」役割は、いまとなっては「価値がない」ことを知ることです。そして、いまのテクノロジーや社会の常識を基準に照らし合わせて、何を捨て去るべきか、辞めるべきかをはっきりさせることです。そんな取り組みから始めなければ、変革はできせん。

初回でも述べた、かつてのBPRERPによる変革の失敗は、「まずは、いまを終わらせる」ことをやっていなかったからではなかったのでしょうか。DXが同じ轍を踏むことにならないようにしなくてはなりません。

皆さんの取り組むDXは、かつてのBPRERPと同じ轍を踏んではいませんか。DXのお題目で、部門調整に明け暮れてはいないでしょうか。「DX」という言葉に「倦怠感」を感じ始めているのなら、改めてDXの本質に立ち返り、自分たちの取り組みを問い直してはどうでしょう。そうしなければ、かつてのBPRERPと同様に、たいした成果も残せずに、労力だけを費やして、疲弊して、気がつけば、何にも変わっちゃいない。そんなことはしたくないものです。

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斎藤昌義 著
A5判/384ページ
定価2,200円(本体2,000円+税10%)
ISBN 978-4-297-13054-1

目次

  • 第1章 コロナ禍が加速した社会の変化とITトレンド
  • 第2章 最新のITトレンドを理解するためのデジタルとITの基本
  • 第3章 ビジネスに変革を迫るデジタル・トランスフォーメーション
  • 第4章 DXを支えるITインフラストラクチャー
  • 第5章 コンピューターの使い方の新しい常識となったクラウド・コンピューティング
  • 第6章 デジタル前提の社会に適応するためのサイバー・セキュリティ
  • 第7章 あらゆるものごとやできごとをデータでつなぐIoTと5G
  • 第8章 複雑化する社会を理解し適応するためのAIとデータ・サイエンス
  • 第9章 圧倒的なスピードが求められる開発と運用
  • 第10章 いま注目しておきたいテクノロジー
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